みなさんの中には、ことわざや故事成語のひとつを座右の銘にしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。けれど、実際に漢文を学習したのは、中学や高校で少し。しかも当時はあまり興味をもたなかったという方も多いのでは?
そこで、今回は今では、小学6年生から学習することになった漢文が、50歳の今だからこそ楽しむことができるという『楽しさをみつけるポイント』と『おすすめの書籍』12冊をご紹介したいと思います。
漢文の楽しさ
最近では、小学生から国語の学習に漢文が入ってきましたが、小学生には、漢文を読み下すことまでは要求されていなくて、
たとえば、
『百聞は一見にしかず』
は
『百聞不如一見』
と漢文では書くんだなあ・・ということを知って、おもしろいなあ・・とか、他にもしらべてみたいなあ・・と興味をもってもらうきっかけづくりのひとつとして取り上げられているという感じです。
その後、中学生になると、『返し点』などを学び、漢文を読み下す学習をしていきます。『返し点』は『レ点』ともいわれ、レ点のついた1つ下の文字を先に読んだ後にレ点のついた文字を読みます。これに一二点がつくと混乱してわからなくなり、漢文に苦手意識をもつようになることがよくあります。
現在50代の方なら、中学生のときには孟浩然の『春暁』、高校では杜甫の『春望』、史記の『項羽本記』中にある『四面楚歌』などを思い出すのではないでしょうか。
おとなだからこそ楽しい漢文
おとなは別に漢文の勉強をしているわけではないので、純粋に漢文を楽しもうと思うなら、気に入っている故事成語やことわざの原文を知るととらえて、出典を検索して、その文(漢文)を読むことが『おとなが漢文を楽しむポイント』だと思います。
つまり、
教科書ガイドで答えをみてから、考えるようなものです。
上記の『百聞は一見にしかず』も、最初から答え(意味)を知っているからこそ、この『百聞不如一見』をみて、『百聞は一見にしかず』と書いてあるんだとわかるし、漢文ではこう書くんだと理解できるんです。
たとえば、『四面楚歌』は、周りには敵ばかりで味方がいない状況のことをいいますよね。この四面楚歌に関する漢文は、
「項王ノ軍壁二ス垓下一。兵少ナク食尽ク。
漢軍及ビ諸侯ノ兵囲レムコト之ヲ数重ナリ。
夜聞二キ漢軍ノ四面皆楚歌スルヲ、項王乃チ大驚キテ曰ハク、
漢皆已ニ得レタル楚ヲ乎。是レ何ゾ楚人之多キ也ト。」(フロンティア古典教室より引用)
と記されていて、なぜ四面楚歌がそういった意味なのかが、この漢文を読み下すことによってわかります。
書き下し文は、
「項王の軍垓下に壁す。兵少なく食尽く。
漢軍及び諸侯の兵、之を囲むこと数重なり。
夜漢軍の四面皆楚歌するを聞き、項王乃ち大いに驚きて曰はく、
「漢皆已に楚を得たるか。是れ何ぞ楚人の多きや」と。
となります。
ざっくりといえば、
項王軍が垓下の城壁の中に立てこもって、兵数少なくて食料も尽きてしまった。漢軍と諸侯の兵は、幾重にも取り囲んでいる。夜、周りを囲んだ漢軍が、全楚の民謡を歌うのを聞いて、項王はとても驚いて、「漢はもうすでに楚を得たのか。なんと楚の人間が多いことだ。」といった。ということになります。
このことから、
自分の周りで大勢の人が楚の民謡を歌っているのを聞いて、味方までもが寝返って敵軍と楚の歌をうたっているのか・・と落胆してしまったのですね。
自分の周りには味方がいない。敵ばかりだ!と思ったことが『四面楚歌』の意味の由来ということがわかります。
へえ・・、そうなんだ!という感じで興味がわきますよね。
しかも、この部分は『項羽と劉邦』として小説化されたり、漫画化されたりしているので、そういった小説や漫画を読んでから、漢文を読み直すと、漢文のおもしろさに深まりがでるようになります。併せて漢文の読み方(レ点や一二点など)も理解してしまったりするおまけつきだったりも・・。
足るを知る
さてもうひとつ。漢文といえば有名な孟子。
孟子の『道徳経』第三十三には、このような文があります。
知人者智、自知者明。
勝人有力、自勝者強。
知足者富、強行者有志。
不失其所者久。
死而不亡者壽。
書き下し文にすると、
人を知る者は智、自ら知る者は明なり。
人に勝つ者は力有り、自ら勝つ者は強し。
足るを知る者は富み、勉めて行う者は志有り。
その所を失わざる者は久し。
死してしかも亡びざる者はいのちながし。
全体的にすごくよいことが言われているのに、なぜか『足るを知る』をピックアップしていますよね。
『人を知る者は智、自ら知る者は明なり』
ここもすごいことをいっています。
まあ、それはさておき。
『足るを知る』
いろいろな状況で考えさせられる言葉ですね。
今の自分は果たして『足るを知る』、つまり『今』に幸せをみつけだし、幸せと感じることができているでしょうか。
今に満足して幸せを感じることができれば、それこそが富む、豊かであるということだと孟子は教えています。
こちらも、原文の漢文をもっと読んでみたくなりませんか?
漢文の楽しさをみつけるポイント
故事成語やことわざの中で、原文が漢文であるというのがよくあります。興味があるものをみつけて、出典を調べると小説化やコミック化されているものがあるので、それを読んでみましょう。
楽しさをみつけるポイント
- 好きな故事成語をみつける
- 原文(漢文)を調べる
- 小説や漫画になっていないかを探してみる
- 小説や漫画からの中でどう表現されているか探す
参考に、おすすめの書籍や漫画をご紹介しますね。
おすすめの書籍とマンガ
『四面楚歌』に関連する『項羽と劉邦』です。
手塚治虫先生のマンガもあります。
横山光輝先生の『史記』では四字熟語の『臥薪嘗胆』も知ることができます。
こちらは故事成語を特化してあるので、さらにわかりやすいです。
ハードボイルドの北方健三さん
故事成語とは
故事成語、ことわざ、ついでに慣用句の違いは次のようにとらえてください。
故事成語:昔から伝わる出来事(故事)から生まれ、特定の意味をもつ言葉
ことわざ:庶民の間で言いならわされてきた教訓的な内容をふくんだ言葉
慣用句:二つ以上の語句が結びついてもとの語句のいみとは別の新しい意味を表す言葉
※必ずしもどれか1つに分類されるということはありません。『四面楚歌(しめんそか)』など故事成語、ことわざのどちらにも当てはまるものも存在します。
『新国語便覧』(秀学社)参照
小学校学習指導要領では、漢文を『伝統的な言語文化に関する指導の重視』という内容として位置づけ、言語文化を継承し、新しい創造へとつないでいくことができるようにするための学習として(文部科学省『小学校学習指導要領国語編』参照)小学6年生から漢文の学習を取り入れています。子ども時代から求められていることは、なかなか志が高いものですね。そして心豊かな人間になることを求められています。
自分は如何ばかりかと思うところです。
まとめ
漢文は、そのままでは何だかとてもわかりにくいですね。学生時代に学んだときは、試験に必要な記号や、訳の暗記に追われてしまいました。
そんな必要もなくなった今、そして酸いも甘いも多少は経験してきた年代になってきたからこそわかる本当は意味の深かったあの言葉やこんな言葉。
それが実は漢文が元になっていたと知ったら、いろいろと読んでみたくなります。
私はできるだけ簡単に知りたい!と思う方なので、マンガや子ども向けの書籍がわかりやすくおすすめしますが、ご自身の好みに合わせて選んで読んでみていただけるといいなあ・・と思っています。